出所

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”やったぜ。ざまーみやがれ”。今日の朝から僕には分かっていた、動物独特の本能で。”今日こそ出所。いえ、退院するのです。みなさん、本当にお世話になりました”。なんたって入院してから46日間毎日毎日孤独なトレーニングの日々。泳いで泳いで泳ぎまくった46日間。僕は本当に頑張ったんだよ。あばよ、お友達の犬くんたち。僕みたいに頑張ればやがて退院。諦めちゃダメだよ。元気でねぇ。もう、みんなとは会えなくなるけど残念ながらそんなに寂しくなかった。帰れる喜びのほうが強かった。人生厳しい。

トリマーのお姉さんも今日はやけに丁寧に洗ってくれる。ココナッツの香りのするコンディショナーも付けてくれた。お尻の毛も念入りに剃ってくれた。「フランソワーズちゃん、元気でね」と、インストラクターのお姉さんたちもヤバ甘い声を出す。なんたって僕は忍耐強くて賢いトイプードルだからね。たとえ、ママが打ち合わせと称して最近お気に入りのカフェで豆乳キムチおじやを食べ(さっさと引き上げろよ)、その後、コーヒーとチーズケーキを頼み、チーズケーキの下に敷いてある輪切りの青リンゴを「絶妙、絶妙」と褒め称え、その後、友達まで呼び、途中で店から出て、ケータイで大声でなんちゃらかんちゃら。この服がいいの、白いパンツは太く見えるなどと臨月スタイリスト、フナーキとがちゃがちゃ大騒ぎ、そのお陰で東京出発が遅れてしまい、僕が寒空の名古屋で待ちくたびれていたとしても文句は言わない。今日は本当に寒い。きっと今日から冬なんだね。あっという間に紅葉。楽しみにしていたのに、帰るのは真夜中だな。と、ため息をついていたとしても、けっしてそんな所は見せない。フロントで待っているママのところに看護婦さんのお姉さんが連れて行ってくれたのは夕食後の八時。僕はドキドキして震えた。だけどママを満足させようと上品に振舞った。今度は暴れないことにした。だって僕には分かるんだよ、今日こそ絶対帰れるって。「お待たせしました。さっ、帰りましょ。貴方のフランソワーズと一緒に!」僕はうやうやしくママの腕を取り接吻する勢いで、悲しくも犬の習性か?思いっきりママの顔中嘗め回した。フランソワーズ君特製のディープキスでママの唇を分け入った(あれ?ちょっとこの言い方はポルノ小説みたい?)。とにかく、ははははは、退院だ退院だ!ママがお勘定を済ませたとき、僕の本能の確信は現実となった。あばよ、ネバーカムバック!・・・・・・・・と・・・ママが表情を変えずに「次はいつにしましょうか?」。「そうですねぇ、やっぱり詰めるときは詰めて頑張らないと。忍耐と継続が必要ですね」と見慣れすぎた温和な顔の福田医師が微笑んだ。やだ。やな予感。マジかよ。


2006年12月05日

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